2011-11-09

DEF LEPPARD at Tokyo International Forum Hall A on 7th Nov

   

一昨日、国際フォーラムにてDEF LEPPARD(以下LEPS)のライブを観てきた。

LEPSはわたしが中学生のころから聴いている「原初のバンド」のひとつで、
個人的にとても思い入れのあるバンドであるにも関わらず、今回が初見だ。

これまでの来日公演はタイミングが合わなかったが、とうとう観ることができた。
期待と不安が入り混じってはいたものの、結果として貫録のライブに圧倒された。

それでは、以下に7日(月)のライブレポをお届けする。


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ここ数年はライブハウスに赴くことが多く、指定席制のコンサートホールは久々だった。
東京のホールクラスの会場はたいてい行ったことがあるけど、国際フォーラムは初めて。

開演の15分前くらいに中に入ると、その内部構造のあまりの広さに驚いた。
武道館やスーパーアリーナと違ってあくまでもコンサートホールであり、
これまで行ったことのあるそれの2倍、3倍の空間に唖然としたのだった。

客層は30代後半~50代前半がほとんどで、若いひとが少なくて残念だった。
こうしたビッグネームのバンドこそ、まずは観てもらいたいものなのだが。

開演を待つ間、サウンドチェックで今日やる曲がわかってしまったのは御愛嬌か。
館内アナウンスが「キャラクター商品を販売しております」と言うと失笑が漏れる。
ふつうは「アーティスト・グッズ」と呼ぶのだが…。誰かウドーに伝えてくれ。

開演予定時刻の19時前になるとLED ZEPPELINの"Kashmir"が流れ出し音量が上がる。
いよいよか、とあちこちで歓声があがり、AC/DCの"For Those About To Rock"に。


曲が終わると暗転、新作のライブ盤Mirror Ball 所収の新曲"Undefeated"冒頭のSEが始まる。

LEPSらしい隙間のあるリズムにのって所々で「Shout!」の掛け声が入るシンプルなSEである。
何回目かの「Shout!」でほんの一瞬、ライティングがドラムライザーを下から上へ照らし出すと、
ドラム横に仁王立ちした二人の大柄な男の姿が瞼に焼きついた。単純だがまことにかっこいい。

バンドが演奏に入り、ジョー・エリオットとリック・サヴェージが階段を下りてくる。
上手のフィル・コリンはすでに上半身裸で、汗に光る肉体をさっそく誇示している。
下手のヴィヴィアン・キャンベルは楽しそうにギターを弾きながら前方の観客を煽っている。
リック・アレンは裸足でペダルを踏みつつ、俯きながらタイトなドラムを響かせている。

ライブ初参戦とはいえ、「ああ~これがLEPSだよな~」と思わず笑みがこぼれてしまった。

比較的ヘヴィでモダンなリフの新曲だけど(いかにも「アップ」用の出だしである)
彼らならではのコーラスワークに手をあげて応えるオーディエンスもかなりいた。


とはいえ、HM/HR界最大規模のヒット曲保持者である彼らのライブはここからが本番だ。

はやくも"Let's Get Rocked"が登場、さっそく大盛り上がりである。
いやはや感嘆するほどシンプルな歌詞だが、曲もいたってシンプル。

この後、何度も目にすることになるのだけど、計算され尽くしたその音数の「少なさ」の妙、
これこそがLEPS最大の個性にして持ち味であり、かつその批評性が発揮されているところだ。

例えば、サヴがベースを弾かないパート、ヴォーカルとドラムだけのパート、
ギターが片方だけ/両方とも弾かないパート、といったものが頻出するのだ。

またよく言われるようにギターソロも極めて短くコンパクトで、やはり音数は少ない。
にもかかわらず/それゆえに、そのギターは非常に印象的で耳に残る。しかも飽きない。


つづく"Animal"などその典型だろう。わたしがもっとも好きなLEPSの曲のひとつでもある。
晴れ渡った青空を思わずにいられない爽やかな歌メロと、「参加できる」サビのコーラス。




メロディアスでありながら「メロディの動き」に拘泥せず、ライブを想定した曲を作る。
そのために音を抜いて隙間を設け、シンプルで覚えやすく、かつ飽きにくい曲にする…。

つくづく思うのだが、ソングライターとしてのLEPSはまごうことなき天才集団だ。
プロデューサーのマット・ランジの下で学んだこともとても大きいのだろうけど、
こうしたシンプルな名曲を書ける者がいかに少ないか、しばし考えてみるといい。

そんなことを考えていたら、フィルによる独特な浮遊感のあるギターソロに。
速弾き全盛の80年代にあって、メロディと音にこだわったソロを聴かせたフィル・コリン。
もっとも過小評価されているギタリストのひとりとして、彼の名前をあげねばなるまい。


2008年のSongs From Sparkle Lounge から、グラム調の"C'mon C'mon"で軽快にハネる。

これはサヴの曲だ。そして、わたしはこの人のアピアランスがむかしからとても好きだ。
右手にグローブ、白黒ユニオン・ジャック柄ベース、そのベースを低く構えた姿と、
見せ方自体はオーソドックスなのだけど、ここまでベーシストらしいひとは少ない。
ドラムライザーの上に大股で立ち、ルートを弾くだけでサマになるベーシストである。


"Women""Foolin'"と大人気曲がつづく。なんというか、もう参りました、といった心境だ。

よくよく考えてみると、彼らは売れていなかった期間がとても短いというか、ほとんどない。
1stや2ndだって当然チャートに入っているし、3rdで大ブレイクしてからは言わずもがな。

ジョーのキャラクターから容易に推察できるように、基本的に彼らは「ロックファン」で、
他のメンバーも同様であることは、その課外活動からわかる。(一緒にやることも多いし)

自分たちがキッズだったときに好きだった曲、それと同じ感覚を聴き手に与える曲を書く。
しかし、時代が違うからやり方を考えねばならない。そのために分析し、緻密に構築する。

これをしばしば「売れ線狙い」と揶揄する者がいる。アホか、と思う。(事実そうだろうが。)

音楽に限らず、いわゆる「芸術」諸ジャンルにわたって言っておきたいことがある。
それは、「好き - 嫌い」「いい - 悪い」という二本の軸からなる座標を想起せよ、ということで、
自分の「好き」を「良い」と、「嫌い」を「悪い」と混同するひとが多すぎはしないか、と思うのだ。
(「嫌い」は「苦手」と言い換えてもいい。ふだん、わたしはそう言うようにしている。)

この世にポップでわかりやすい音楽を好まないひとがいても構わないし、現にいるだろう。
だが、それを表明するならせめて言葉を選べ、と言いたい。発言には責任が伴って然るべきだ。

「好き嫌い」は聴き手の自由である一方、「いい悪い」は聴き手の自由にはならない。
それはある程度「絶対的に」言い得る類のものであって、それが感受できるか否かは、
聴き手の習熟度や音楽に対する態度(倫理と言ってもいい)の深さ/広さによるだろう。

われわれが好もうが好まざろうが、そんな個々人の嗜好/志向/思考を撥ね退ける領域があるのだ。

どのジャンルにおいてもそう言い得るが、受け手として謙虚でありつつ、
かつ冷厳な審判者として、それらの作品の真価を見極めたいものだと思う。


LEPS特有の、ルーズに聞こえるのに案外タイトな"Make Love Like A Man"
劇的な展開の"Too Late For Love"、実験作のタイトル曲"Slang"がつづく。


代表曲の"Love Bites"では、曲の終わりにヴィヴによるギターソロがたっぷりと聴けた。

Mirror Ball で同様のソロを聴くことができるから是非とも聴いてほしいのだけど、
若かりし頃「天才」と呼ばれた80年代屈指のメタル・ギタリストであるDIO出身のヴィヴが、
LEPS加入後はほとんどソロも弾かずのんびりとしていることを残念に思う向きもいるだろう。

かく言うわたし自身、フィルを持ち上げる一方でヴィヴにはもっと弾いてほしいと思っている。
彼が依然として当代最高のソロイストであることに変わりはないと、誰もが思ったのではないか。
もうムダな速弾きはしないだろうが、抑制された音運びの美しさは絶品と言うほかなかった。


そのふたりによるちょっとしたギターバトルが、今度は"Rocket"の後半で聴かれた。
フル・ピッキングによる速弾き合戦である。もちろんハーモニーも聴かせる。
実力は申し分ないが、ギタリストとして欲のないひとたちなのかもしれない。


今度はサヴのベースソロが始まった。エフェクトをかけたこのソロは、やはり新作で聴ける。
テクニカルなソロではないけど、ゆっくりじわじわとメロディを聴かせるところが彼らしい。

新作の流れ通りに"Rock On"だと思っていたら、なんとここで"Gods Of War"である。
実はかねてより聴きたかった「絶対やらなそうな曲リスト」の筆頭株だったので、
これはうれしい驚きというか、ほとんど狂喜乱舞であった。(近場に同様のひと発見)

LEPSにしてはめずらしいエピック・チューンで、タイトル通り戦争を歌った曲だ。
高々とピースサインを掲げて見せるジョーが微笑ましくも頼もしい。

ここまで触れてこなかったけど、コーラスハーモニーの完成度の高さもさることながら、
ヴォーカルの分業制も完璧に機能していてさすがである。ジョーの声もよく出ている。

元々、ジョーはヴォーカリストとしてそれほどうまいわけではない。本人もそう言ってる。
ヘタウマの元祖的な存在とさえ言える。ゆえに叩かれやすい。でも、案外歌えているのだ。
やや厳しいパートもあったけど、2時間歌っていれば若者でも疲れるし、彼はもう52歳だ。


そのジョーがアコギを抱えて戻ってきた。
成功したスターとしての存在感と、ロックファンとしての親しみ易さが同居する男。

「みんな、バンドの一部になってくれ」と言うと、"Two Steps Behind"が始まった。
リック抜きのアコギ三人+ベースという編成。アコギによるハモリが美しい。

そのまま"Bringin' On The Heartbreak"につなぎ、サビでは場内が盛大な合唱に包まれる。
曲の後半でリックが戻ると同時にエレクトリック・パートへ、という劇的な展開がきまる。
複雑な展開ではないけど、とても効果的で難なく感動してしまった。素晴らしい曲だ。


さらにインストの"Switch 625"がつづく。派手さはないのに、しみじみとかっこいい。
後半ではリックの短いドラムソロが挟まれた。笑顔がとても輝かしい。まるでこどもだ。


さて、この世にリック・アレンほど称賛されて然るべきドラマーが、他にいるだろうか?

大成功した3rdをうけて、4thの曲作りをしていた1984年。その大晦日に起こった大事故。
「左腕を失う」ということがドラマーにとって何を意味するのか、考えるだに恐ろしい。
しかも、彼はまだ21歳だった。バンドのため高校を中退している。社会に戻るのは難しい。

絶望したリックをバンドは見捨てなかった。メンバー交代など微塵も考えなかったらしい。
シモンズと提携してリック専用のエレクトリック・ドラムを開発し、ひたすら復帰に励む。
(ちなみに、スネアとタムを左足のペダルを踏むことで叩けるように設計されている。)

そして、1986年のMonsters Of Rockで見事に復活。この時のジョーのMCは伝説となっている。

新作の付属DVDでは、2009年のDownload Festivalの映像が収められている。
そう、フェスの名称こそ変わったが1986年と同じ場所、キャッスル・ドニントンだ。

ここでふたたびリックを紹介するジョーのMCが感動的で、リックも涙を堪えられない。

素晴らしいバンドが、必ずしも素晴らしい人間で構成されているとは限らない。
その音楽さえ良ければ、バンドの内実など知ったことではないとも言えるだろう。
でも、わたしとしては好きなバンドのメンバーが素晴らしい人間であればうれしい。
LEPSのように絆の深さに重みと説得力のあるバンドがつづいているのも当然に思えてくる。


ご存知の通り、リックが復活しての4th、Hysteria (1987)は驚異的な成功を収めた。
彼のドラム・サウンドを最大限に活かしつつ、緻密に計算・構築された楽曲群。
それは決して「怪我の功名」ではない。前作の延長線上にある音楽性だ。

その姿勢がまた素晴らしい。彼らは音楽から逃げてなどいない。挑戦者なのだ。
だからこそ、売れたからと言って批判する者の気が知れない。
皮肉なことに、彼ら批判者こそまさに「ヒステリア」なのだった。


タイトルにそぐわない、ゆったりとしたメロディが美しい"Hysteria"に感動した後、
ギターを換えてきたヴィヴを見たジョーが「そういや、この若造DIOにいたな」と一言。
そしたらなんと、"Last In Line"のリフを弾くではないか!おお、本物だ!と興奮する。
さらに「WHITESNAKEにもいたよな」と言うと、今度は"Bad Boys"が!うおお、(以下略)

ジョーがあらためて「ヴィヴィアン・キャンベル!」とコールし、"Armageddon It"へ。
先の2曲同様かそれ以上に素晴らしくロックしたリフではないか、と瞠目した次第。


これに"Photograph""Pour Some Sugar On Me""Rock Of Ages"がつづくのだ。
もはや全面降伏するしかないではないか。ロック・ファンの幸せがここに。




アリーナ・ロックはアメリカのバンドではなくAC/DCとLEPSが確立したのではないか、
そうわたしは思うことがあって、VAN HALENやBON JOVI、そしてLAメタル勢などは、
それをアメリカに(再)適合させたことで成功したのではないか、とも思っている。
(ロス時代のVHをどう判断するかは少々難しいので、大幅な留保が必要だけど。)
ちなみに、『ブラック・アルバム』経由の現代版アリーナ・ロッカーがNICKELBACKである。
(要するにマット・ランジ仕様ということでもあるのだが、長くなるからやめよう。)


"Photograph"では白青赤の通常版ユニオン・ジャック柄ベースに換えてサヴ登場。

不思議なことに、ユニオン・ジャックが似合うのはNWOBHM期のバンドだけではないか?
IRON MAIDEN、SAXON、そしてLEPS。MOTÖRHEADを加えてもいい。どうしてなのだろう?


終盤になるとメンバーもハイになっているのか、
ジョーはマイクスタンドを逆さにしてバランスを取りながら歌ったり、
ヴィヴはギター交換に応じずローディーから逃げて見せたりと、もうこどもである。

ドラム台から出てきたリックが、黒のノースリーブ(左腕はユニオン・ジャック柄の布で塞がれてた)、
やはりユニオン・ジャックがあしらわれたハーフパンツに裸足で登場すると、やんややんやの喝采が。
にこにこ笑いながらグッと親指を立てて見せたその姿が、まるで夏の日のこどもようだった。
(そういえば、ドラム台のマイクにはひまわりが飾られていた。たいへん似つかわしい。)


アンコールは、わたしが初めて買ったLEPSであるベスト盤Vault (1995)所収の、
"When Love & Hate Collide"で始まった。しばし、当時を思い出さずにいられなかった。
サビの高音部は完全に歌えてなかったが、まあオリジナルも苦しそうだから許そう。


ラストは"Rock! Rock!(Till You Drop)"で盛大に。締めくくりの言葉は決まっている。

「Don't foget us, we won't foget you!」


文句なしに素晴らしい、長年トップにいるバンドだけが為し得るライブだった。


SETLIST

01. Undefeated
02. Let's Get Rocked
03. Animal
04. C'mon C'mon
05. Women
06. Foolin'
07. Make Love Like A Man
08. Too Late For Love
09. Slang
10. Love Bites
11. Rocket
12. Gods Of War
13. Two Steps Behind
14. Bringin' On The Heartbreak
15. Switch 625
16. Hysteria
17. Armageddon It
18. Photograph
19. Pour Some Sugar On Me
20. Rock Of Ages
Encore
21. When Love & Hate Collide
22. Rock! Rock! (Till You Drop)



心配していたのが申し訳なくなったほど、ジョーはごくふつうに歌えていた。
前回の来日公演をボロクソに叩いていたサッカー評論家が恨めしい。

とても素晴らしいライブだったので手ぶらで帰るのもつまらないと思い、久々にTシャツを購入。
「明日は違うセットリストにする」とジョーが言っていたから行きたかったけど、そこまでは首が回らない。

大好きなEuphoria (1999)から1曲も聴けなかったのは残念だったけど、
それもどこ吹く風、と言えるほど充実した内容だった。

こうしたライブを毎回やっているからこそ、30年もの長きにわたって動員を落とさないのだ。


終演後、新曲の"Kings Of The World"が流れた。サヴ作曲の、モロに初期QUEEN調の曲だ。
ノスタルジックで美しい曲を聴きながら帰途に着く観客は、みな笑顔で口々にバンドを讃えていた。

これこそが成功したバンドの義務、そして仕事である。


DEF LEPPARDに、最大限の敬意と感謝を捧げたい。



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3 件のコメント:

  1. 久々に曲を聴きました。

    今まで気にせず聴いていたのですが、たしかに計算しつくされた【音】たちですね。気づきませんでした・・・。
    また買い集めようかなとも思ってしまい、お財布と相談です(笑)

    サービス精神旺盛なステージを充分すぎるほど味わったMoonさんの
    T シャツ購入が何より全てを物語っていますね♪

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  2. >kanaさん

    わたしもしょちゅう聴いてるわけではないけど、
    たまに聴き返すたびに、あまりに曲が良くて感心してしまいます。
    何百回聴いても飽きがこない曲を作るって、ホントに凄いことです。

    それと、やっぱり成功しつづけたバンドは見栄えがしますね。
    さすがに若い頃のような運動量はないけど、見せ方がうまかったです。

    あとは、あのTシャツをどこに着て行くか、ですね(笑)

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  3. 鋼鉄武装(裏)2016/06/06 15:52:00

    こんにちは(笑) 只今移動中につきましてブログ拝読させていただいてます(^ー^)

    フィルの過小評価は大賛成ですね!ライブ観て『素晴らしい』『こんな凄かったか?』と思った一人ですフィルは(^ー^)
    多くの人はライブ観ればわかると思います( ̄^ ̄)

    白蛇と来た時以来観てませんね~(x_x)
    貴殿 絶賛の最新アルバム 早く聴かな(笑)←まだかよ

    ではでは(^-^)/また来ます!


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