2013-07-02

CLUTCH / Earth Rocker (2013)


「ストーナー・ロック」をご存知だろうか?(たまに「デザート・ロック」とも呼ばれる。)

ドゥーム・メタル(というか初期BLACK SABBATH)のアメリカ型変種であり、フラワー・ムーヴメント以降のサイケデリックな麻薬文化(とくにマリファナやLSD)や、バイカー/サーファー/スケーターといったサブカルチャーとの接点も多いのが特徴でもある。

音楽的には「ヘヴィでディープなブルーズ・ロック」ないし「ライトでラフなハード・ロック/ロックンロール」といったところで、前者の代表がKYUSSSLEEPMONSTER MAGNET、後者の代表がNEBULAFU MANCHUなどだ。(より広い音楽性のDOWNCORROSION OF CONFORMITYSPIRITUAL BEGGARSなども、作品の時期によってはここに含まれることがある。)

また「初期サバス・フォロワー」の一群もこのジャンル内に含まれるため、そうした最重量級バンドとしてELECTRIC WIZARDや、本邦のETERNAL ELYSIUMおよびCHURCH OF MISERYなどの名前が挙げられる。(ただし、彼らを「ストーナー」と呼ぶのは文脈次第では違和感があることをつけ加えておく。)

最大の成功者は、元KYUSSのジョシュ・オムが結成したQUEENS OF THE STONE AGEだろう。どうしてあれほどの規模の成功を収めつづけているのか、あのマニアックな音楽性を思うと未だに違和感があって仕方ないのだが、いまはそれを置いておこう。


今回の主役は来日経験もあるヘヴィ・ブルーズ・ロッカー、CLUTCHとその新作である。

Earth Rocker

1. Earth Rocker
2. Crucial Velocity
3. Mr. Freedom
4. D.C. Sound Attack!
5. Unto The Breach
6. Gone Wild
7. The Face
8. Book, Saddle, And Go
9. Cyborg Bette
10. Oh, Isabella
11. The Wolf Man Kindly Requests...


この春にリリースされた10thアルバムの『Earth Rocker』は、彼らの最高傑作と言っていい出来だった。彼ら自身、「聴きやすさ」「ストレートなロック」を念頭に置いて制作したと語っている。実際、彼らの旧作はキャッチーな曲と非キャッチーな曲が混在しており(そこが魅力的なのだが)、ややもすると中途半端な出来と受け取られかねなかった。ただ、それにはこのジャンルならではの理由がある。

「ストーナー・ロック」は、ともするとそうした「キャッチーさ」を御法度とするジャンルなのだ。というのも、リスナーは気持ちよく「トリップ」したい輩がほとんどで、ならば耳に残るフックのある曲よりも、「ああ、なんか鳴ってるな」程度のだらだらした曲の方が好まれる場合があるからだ。よく言えば、「酩酊を深めるようなグルーヴ」を重視しているのである。(モンマグやベガーズは「キャッチーになった」と批判されたそうな。)

そうはいっても、ミュージシャンとして研鑽を重ねたら、自ずと表現力は拡がる。多くのバンドがより音楽的に洗練され、キャッチーになっていった。CLUTCHも同様で、それどころかCLUTCHは当初からこのジャンルでは「もっともキャッチー」で「聴きやすい」バンドだった。3rdは日本盤も出たし(90年代にこの音楽性で日本盤が出たのは奇跡と言っていい)、スピベガに帯同するかたちで2003年に来日もしている。わたしはそのときに彼らのライブを観て、一発でファンになったのだった。

そんな「わかりやすい」CLUTCH最大の特徴は、あらゆるアメリカン・ブルーズを網羅するかの如き「ごった煮」感だ。重厚なヴォーカル、シンプルなリフ、骨太なグルーヴなどからパッと聴きは「粗野で原始的なロック」なのだが、その実これほど洗練を極めたアレンジによるアンサンブルを聴かせるバンドは少ないことに気づかされる。

ブルーズ、ハード・ロック、サザン・ロックだけではなく、東海岸出身者ならではのR&B感覚や、アメリカの音楽の基底に流れているジャズ、フォーク、カントリーの素養も窺わせる。これらがとてもナチュラルに混然一体と化しているのだから、その咀嚼力たるややはり「原始的」なのかもしれない。

たとえばKYUSSの音楽には、人影なき荒涼たる砂漠を超然的な視点から眺めたかのような超越性が、言うならば「聖なるもの」の姿がちらつくのに対して、CLUTCHの音楽にあるのは日常的な大衆性である。(いや、それどころか「体臭性」と表記すべきかもしれない。)

広大なアメリカのどこかにある、わけわからない人間ばかりが闊歩する田舎町における悲喜劇的なあれこれを音楽化したとでも言おうか、とにかく彼らの音楽は人間臭いのだ。メンバー自身、どう見ても「そこら辺のおっさん」である。だが、その音楽は極めて豊饒だ。

これほどのロックはそうざらにあるものではない。アメリカ音楽をより広く深く聴いているひとほど、その魅力や実力に感嘆することだろう。それでいて老成することはなく、ハード・ロックならではのアタック感は失われるどころか増してさえいるのだから素晴らしい。

日本での知名度こそ低いが、間違いなく世界最高峰のロック・バンドである。

この手の音楽は、猛暑の夏に聴くとまた暑苦しくて最高なので、冷房を切って汗をだらだら流しながら爆音で聴くことをお薦めする。ついでに言うと、輸入盤は安くて買いやすいから懐にもやさしい。ぜひ一聴を!


この濃ゆいパフォーマンス、また観たいものだが…。だれか呼びなさいよ。



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